朝鮮学校への「高校無償化」の即時適用を求める要請書

先週の突然の政府の発表に対し、緊急要請書を作成しましたので、ここに掲載します。


2010年11月29日
内閣総理大臣 菅 直人 殿
文部科学大臣 高木義明 殿
内閣官房長官 仙谷由人 殿

朝鮮学校への「高校無償化」の即時適用を求める要請書

 報道等によれば、文部科学省は、朝鮮学校による「高校無償化」の申請は予定通り11月30日まで受理するが、現状では審査を「停止」することを正式に発表しました。今回の「停止」は、朝鮮半島の西海での軍事的な衝突を受けての判断だと、総理大臣、文部科学大臣官房長官らは発言しています。従来、日本政府は「高校無償化」の適用については、「外交上の配慮などにより判断すべきものではなく、教育上の観点から客観的に判断すべき」だと繰り返してきました。今回の「停止」措置は、その見解をくつがえすものです。そのことについて文科大臣は、「平和を脅かす特別な想定外の事態」に対応したのだと説明しました。しかし、これは外交的に解決すべき問題を教育の場へと転嫁する、きわめて不当な判断だと、わたしたちは考えます。

 そもそも、「高校無償化」とは、「国連人権A規約の精神」にのっとって、「国籍を問わず、わが国において後期中等教育段階の学びに励んでいる生徒を等しく支援する」ためのものであると、政府は説明してきました。であれば、文部科学省が制度を適用する外国人学校を公表した4月の時点で、高校段階の課程を有する朝鮮学校は当然そのなかに含まれるべきものでした。にもかかわらず、日本政府は朝鮮学校のみを巧妙に例外扱いし、判断を引き延ばし続けました。まず専門家による検討会議が8月まで続き、次に総理大臣の指示で民主党内での議論をおこない、ようやく11月5日になって適用基準を定めた「規程」が出されたにもかかわらず、また今度は手続きの「停止」です。朝鮮学校の生徒や関係者を愚弄するにも程があります。また、これでは、仮に今後適用が認められても、情勢次第ではいつ再び適用が「停止」されるか分かりません。今回の「停止」は、現行の法令が、いつでも朝鮮学校を「狙い撃ち」できる構造を有していることを露呈させました。そしてこのような政府の一連の措置が、地方自治体の朝鮮学校に対する補助金支給見直しの機運をつくり出していることも、わたしたちは深く憂慮しています。

 一体、今回の軍事衝突と「高校無償化」に何の関係があるのでしょうか。今回の日本政府の過剰反応は、日米戦争のさなかに米国で日系人らが「敵性外国人」として財産を奪われ、強制収容所に送られ、日本人学校が閉鎖された歴史を思い起こさせます。また、冷戦の緊張が深まる1949年、在日本朝鮮人連盟が「反民主主義」的な団体であるとして強制解散させられ、朝鮮人学校が閉鎖され、財産も没収された歴史をも想起させます。こうした歴史的経験や、今回の「停止」に至る一連の措置をみるかぎり、日本政府は、朝鮮学校に通っている生徒や関係者を「敵性外国人」とみなしていると考えざるを得ません。これは「人種、信条、性別、社会的身分」に由来する差別を禁じた日本国憲法ならびに国連人権規約、人種差別撤廃条約にも反する不当な措置です。

 わたしたちは、日本政府に対し、朝鮮学校の生徒や関係者を愚弄しつづけたことに対して謝罪し、即刻「高校無償化」制度を適用することを要求します。

板垣竜太(同志社大学)、市野川容孝(東京大学)、鵜飼哲一橋大学)、内海愛子早稲田大学)、宇野田尚哉(神戸大学)、河かおる(滋賀県立大学)、駒込武(京都大学)、坂元ひろ子(一橋大学)、高橋哲哉東京大学)、外村大(東京大学)、冨山一郎(大阪大学)、仲尾宏(京都造形芸術大学)、中野敏男(東京外国語大学)、藤永壮(大阪産業大学)、布袋敏博(早稲田大学)、水野直樹(京都大学)、三宅晶子(千葉大学)、米田俊彦(お茶の水女子大学

「京都緊急集会」(2010.11.19)で採択された要請書

 共催した集会で採択した要請書です。


2010年11月19日
内閣総理大臣 菅直人 様
文部科学大臣 高木義明 様
内閣官房長官 仙谷由人 様

朝鮮学校への速やかで無条件の「高校無償化」適用を求める要請書

 さる11月5日、高木義明文科大臣は、いわゆる「高校無償化」制度の適用基準に関する「規程」および「談話」を発表しました。しかしながら、朝鮮学校への制度適用が決まったわけではなく、未だこの問題は宙づりになっています。わたしたちは、外国人学校のなかでも朝鮮学校のみがこのような扱いを受けてきたことを不当だと考えます。
 そもそも、文部科学省が制度を適用する外国人学校を公表した4月の時点で、高校段階の課程を有する朝鮮学校は当然そのなかに含まれるべきものでした。ところが、大使館を通じて教育課程が確認できるか、国際的な学校評価団体の認定を受けているか、という一見客観的にみえる基準を導入したことで、巧妙に朝鮮学校のみが例外扱いされました。その後、「高等学校等就学支援金の支給に関する検討会議」で適用基準が審議され、8月30日にその報告が出されました。しかしながら、この際にも朝鮮学校に対する悪意ある意見等に政府・与党が左右された結果、再び結論が引き延ばされました。民主党内の議論を経てようやく公表されたのが、今回の「規程」と「談話」ですが、ここで公表されたのも基準だけであり、朝鮮学校への適用が未だ決定されていません。日本の高校や高等専修学校、そして他の外国人学校に通う生徒たちには、既に4月から「高校無償化」が適用されているのに、冬を迎える今になっても、朝鮮学校に通う生徒たちだけは取り残されているのです。
 また、他の学校であれば就学支援金に関する報告資料を3年ごとに提出すればよいところ、この「規程」が適用された学校の場合は毎年出さなければならないなど、差別的な条件を課しています。それに加えて「規程」には、文部科学大臣が各学校に対して「留意事項」を通知し、その履行状況の報告を求めることができるとの条文が含まれています。「談話」では、この「留意事項」の例として「我が国の高等学校の政治・経済の教科書を教材の一つにする」ことが挙げられていますが、これは政府が具体的な教育内容にまで踏み込み得ることを示唆しており、大きな問題をはらんでいます。
 このことは、国連をはじめとした国際社会からも、子どもの人権・教育権問題として強い関心をもたれています。
 以上の点から、わたしたちは、朝鮮学校に対し、無条件で速やかに「高校無償化」制度を適用することを求めます。

朝鮮学校への無条件で速やかな『高校無償化』適用を求める京都緊急集会」参加者一同


2010年11月19日
京都府知事 山田啓二 様
京都府教育委員会教育長 大橋通夫 様
京都府議会議長 林田洋 様

朝鮮学校への教育助成の継続を求める要請文

 本年からはじまったいわゆる「高校無償化」制度に関しては、法令の適用をめぐって様々な議論が交わされましたが、なかでも焦点化したのが朝鮮学校への適用でした。ところが、たいへん奇妙かつ残念なことに、そうした議論に便乗するかのように、いくつかの都道府県において、これまで何ら問題なく支給されていた朝鮮学校に対する教育助成が見直されるなどの動きが見られます。
 特に大阪府では独自の基準を設け、それをクリアしない限りは補助金を支給しないとし、今年度分の補助金の執行を留保しています。そのため、大阪の朝鮮学校では学校運営に大幅な支障をきたしています。神奈川県知事は経常費補助の12月分支給の内示を留保し、自ら朝鮮学校の教育内容を視察する方針を出しています。また、東京都知事も見直しに言及しています。こうした都道府県の動きは、政治・外交の問題を教育の場に持ち込み、教育助成を盾にとって、朝鮮学校の教育内容に介入しようとする不当な措置・判断であるといわざるを得ません。
 京都府では、幸いなことに、現時点でそのような動きは見られません。様々な国籍の外国人が集まる京都において、外国人学校への教育助成がおこなわれることは当然だと考えます。今後も京都府が、これまでと同様に、朝鮮学校に対し教育助成をおこない、なおかつ助成金を増額していくことをあらためて要請します。

朝鮮学校への無条件で速やかな『高校無償化』適用を求める京都緊急集会」参加者一同

再度の要請書の提出について

 8月3日(火)に一橋大学で開かれた「朝鮮学校の「高校無償化」問題を考える学習討論集会」には100名におよぶ参加者があり、活発に討論が交わされました。その場で下記の「要請書」を採択しました。
 この日奇しくも、政府が「朝鮮学校を原則として無償化の対象とする方針を固め、近く発表」するとのTBS報道がありました。しかし、まだ文部科学省において正式決定されたわけではありませんし、翌4日の朝日新聞報道によれば、首相官邸には「政府全体でどう判断するかは別問題」との声もあるとのことで、全く予断を許しません。また、仮に適用が決定されたとしても、問題は継続し、私たちの集会の総意としてのこの要請書を政府に伝達する意義は十分にあります。
 そこで、次の日程で、再度の要請行動をおこないます。
8月11日(水)午前11時〜 文部科学省へ要請書を提出
同日12時〜 記者会見
 当日の模様は、またこのブログで報告いたします。



2010年8月3日
内閣総理大臣 菅直人 様
文部科学大臣 川端達夫 様
内閣官房長官 仙谷由人 様

「高校無償化」措置からの朝鮮学校の排除にあらためて反対する大学人の要請書

 「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」が本年3月31日に成立し、4月30日には施行規則(第1条第1項第2号)に基づいて、この法律が適用される外国人学校の一覧表が告示されました。しかし朝鮮学校については、そこから排除されて「無償化」の対象から外されたままにあり、報道によれば、専門家による検討の場を経て別に結論が出されるとされています。このように朝鮮学校だけを特別視する扱いは、それ自体が差別であり、私たちは教育の場でそのような差別が今回もなされていることを深刻に憂慮します。この問題について私たちは、去る3月18日、大学教員を中心に署名を集めて、文部科学省に「高校無償化」措置の朝鮮学校への適用を求める要請書を提出しました。それにもかかわらず、なおこの現状であることに対して、私たちは抗議の立場から広く討論集会を呼びかけ、その参加者の総意の下に、あらためてこの制度から朝鮮学校が排除されることの無いよう強く要望するものです。
 私たちは大学人として、今回、一覧表から朝鮮学校が外された理由に、2003年に定められた大学入学資格の認定基準が転用されていることを、特に不当だと考えるものです。2003年に定められた大学入学資格の認定基準は、多くの大学人の反対にもかかわらず日朝関係に関わる政治的判断から当時持ち込まれたもので、その後、各大学では、その「個別審査」の枠を通じつつも、ほぼすべての朝鮮高級学校卒業(見込)者の受験資格を認めてきました。そのように大学としては、すでに朝鮮学校を「高等学校の課程に類する課程」として認定し、それを前提に大学教育を行ってきているのですが、今回の措置でその実績が一切顧みられないというのは、日本の大学教育の現状の無視であり、教育行政の整合性を破壊するものではないでしょうか。
 また、日本が批准し今回の「高校無償化」政策の理由にも挙げられている「国際人権規約」「子どもの権利条約」は、民族教育の保障を規定しています。とすれば、朝鮮学校が制度的に不安定な地位に置かれている現状は両条約の精神に反するものであり、その上に「高校無償化」からも排除することになれば、国際社会からの批判を決して免れることはできないでしょう。実際、「無償化」からの朝鮮学校排除の不当性は5月に来日したピレイ国連人権弁務官によってもはっきりと指摘され、韓国を含む世界各国からも、今日までに数多くの批判が寄せられています。日本の教育行政は、この世界の声にも真摯に応えるべきではないでしょうか。
 日本の朝鮮植民地支配下では、民族教育に対して様々なかたちの弾圧が加えられました。また、公式的な植民地支配の後にも日本政府は、朝鮮人学校の閉鎖措置を強行したり制度的差別を設けたりして、在日朝鮮人の民族教育に対して不当な干渉を続けてきました。今回の「高校無償化」に関わる措置が、こうした差別の歴史に過ちをさらに重ねるものであっては決してならないと私たちは思います。今こそそうした歴史に対する真の反省と謝罪の立場に立って過去の過ちを償い、現状を変革しなければならないときです。このときに朝鮮学校を「無償化」措置から排除するとすれば、それは、日本の歴史的責務に真っ向から反するものであると私たちは思います。そのことを憂慮すればこそ私たちは、新内閣が、日本の世論と政府の一部に根強く見られる排外主義的傾向に決して流されることなく、ここで公正な判断を下されるよう強く望むものです。
 以上の理由から私たちは、新しい「高校無償化」制度から朝鮮学校を排除することなく、全ての外国人学校とともにその対象とするよう、あらためて要望します。

朝鮮学校の「高校無償化」問題を考える学習討論集会 参加者一同

学習討論集会(8月3日)のご案内

 たいへん遅くなりましたが、4月の関西ワークショップに引き続き、関東での学習討論集会を下記のとおり企画しました。川端文科大臣は、7月20日の定例記者会見で、「高校無償化」制度の朝鮮学校への適用について、「8月を目途に判定基準と判定方法を含めた方向性が出る」との見通しを明らかにしました。その結果がどうであれ、各種学校たる外国人学校のなかで、朝鮮学校だけが特殊な扱いをされている状況に変わりはありません。今あらためてこの問題を考える場にしたいと思います。


(以下、転送歓迎)

■■■朝鮮学校の「高校無償化」問題を考える学習討論集会■■■

□日時 8月3日(火)午後6時より
□場所 一橋大学 東キャンパス東1号館 1201教室
     ※中央線・国立駅下車・南口から徒歩約6分
       http://www.hit-u.ac.jp/guide/campus/access.html

 本年4月1日、「公立高等学校に関わる授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」が施行されました。4月30日には施行規則に基づきこの法律が適用される外国人学校のリストが告示されましたが、朝鮮学校はこのリストから依然除外されたままです。

 3月18日、私たちは「高校無償化」措置の朝鮮学校への適用を求める要請書を、1000名にのぼる大学関係者の署名とともに文部科学省に提出しました。内閣が変わり、参議院選挙を経て、文部科学省内の「専門家会議」で朝鮮学校の処遇が決定される時が迫るなか、私たちは再度、朝鮮学校の「無償化」措置からの排除に反対し、「国際人権規約」「子どもの権利条約」に明記された民族教育の権利、すべての子どもの学ぶ権利の平等性を保証しうる教育支援制度の確立を求めて声を挙げていきたいと思います。

 本集会では、植民地主義からの解放を希求した在日朝鮮人民族教育の歴史を学び、「高校無償化」に関する法律の諸問題について理解を深め、初等から高等にいたる全教育体系の真の国際化と多民族共生社会の実現のため、私たちが今後取り組むべき課題をめぐって学習と討論を深めていくことを目指します。急なご案内で恐縮ですが、多くの方々にご参集いただければさいわいです。

第一部 講演
「歴史克服・在日状況・そして民族教育」 高演義朝鮮大学校客員教授

第二部 報告
「高校無償化」法の構造と問題点    米田俊彦(お茶の水女子大学教授)

第三部 発言と討論

※入場無料・資料代300円。事前参加申込みは不要です(ただし、メディア取材の場合は事前にお問い合わせください)。「第三部」の発言者は現在依頼中です。詳細が決まり次第、下記サイトに掲載します。

□問い合わせ先: msk_univ[at]yahoogroups.jp
□参考サイト: http://d.hatena.ne.jp/mskunv/
□主催 「高校無償化」措置を朝鮮学校に適用することを求める大学教員の会

関西ワークショップ(4月25日)のご報告

 4月25日、同志社大学(京都)にて“朝鮮学校の「高校無償化」問題を考える関西ワークショップ”を開催しました。午後2時に開会し、参加者は約100名。前半は河かおるさんの司会で、以下のような報告がありました。

  • 趣旨説明(水野直樹)
  • 高校無償措置と大学入学資格―民族教育権保障に向けての論点整理―(駒込武)
  • 民族教育抑圧の歴史と今後の課題(水野直樹)
  • 高校無償化「朝鮮学校除外問題」・橋下知事による補助金廃止圧力(高龍秀)

 後半の討論では水野直樹さんが司会を担当し、まず各大学の入学資格について、多くの大学では朝鮮高級学校を高校に準ずる教育施設として入学資格を認めているものの、国立大学では学生の「個別審査」という形式にこだわっている事例などが報告されました。次に京都朝鮮中高級学校の先生が、「高校無償化」を求める署名活動の際に遭遇した排外主義的な風潮や、学生の進路状況などについてお話し下さり、また布袋敏博さんが東京での呼びかけ人と国会議員秘書との会談の様子を報告されました。そしてフロアからは、日本社会の中で朝鮮問題が無知や無関心による差別ではなく、悪意のある人権侵害のレベルに至っていること、地方自治体からの朝鮮学校への補助金については自治体によって対応が分かれているので、地域ごとの事情に応じた働きかけが重要であること、などの意見が出されました。
 最後に司会から、参加者がそれぞれの立場でこのワークショップの問題提起を受けとめ、行動して欲しいとの要請があり、午後5時40分に閉会しました。

 なお、当日配布資料は下記からダウンロードできます。
kansai20100425.pdf 直

関西ワークショップのご案内ほか

 下記は、賛同者に向けて送ったメッセージ(抄)です。


 ご承知のとおり、3月31日に「高校無償化」法案が参議院を通過し、4月1日より施行されました。報道によれば、わたしたちが求めてきた朝鮮学校への就学支援金の支給については、判断保留の扱いとなりました。ですが、これは単なる結論先延ばしではありません。既に、朝鮮学校の例外扱いという結論が出ていることに、わたしたちは注目せざるを得ません。

 4月1日付の文部科学省令・第13号によれば、「各種学校であって、我が国に居住する外国人を専ら対象とするもの」のうち、就学支援金の支給対象となるのは、次のイ〜ハと定められました。

イ 高等学校に対応する外国の学校の課程と同等の課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置付けられたものであって、文部科学大臣が指定したもの
ロ イに掲げるもののほか、その教育活動等について、文部科学大臣が指定する団体の認定を受けたものであって、文部科学大臣が指定したもの
ハ イ及びロに掲げるもののほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの

 すなわち、大学入学資格に準じて、「当該外国」で高校と同等の課程を有すると位置づけられているかどうか(=イ)、WASC、CIS、ACSI等の評価機関の認定を受けているかどうか(=ロ)、との2つの基準がまず掲げられています。この基準でいけば、外国人学校の国立大学への入学資格と同様に、朝鮮学校は含まれません。大学入学資格では各大学による「個別の入学資格審査」という3番目の基準が設けられましたが、「高校無償化」については「文部科学大臣が指定したもの」(=ハ)とのみ規定されています。指定の判断基準についての報道内容は揺れており、教育専門家らによる文科相の私的な懇談会での議論をふまえ、夏までに文科相が判断し告示するということのみが、現時点では確実な情報です。

 署名用のブログに、「高校無償化」と大学入学資格との関係についての見解を掲載しましたが、そこでも論じたように、そもそも朝鮮学校の大学入学資格を「個別」にしか認めない上記の基準自体、「客観的」どころか、きわめて「政治的」な判断から導入されたものです。それが援用された結果、ふたたび朝鮮学校は例外的な扱いを受けることになりました。仮に文科相が朝鮮高級学校を「高等学校の課程に類する課程」であると認め、遡及支給したとしても、不安定で例外的な地位に置かれることに、何ら変わりがありません。

 このように、懸念されていたとおり、2003年の大学入学資格問題で積み残されていた課題が、「高校無償化」にも引き継がれる結果となりました。

 以上の点を踏まえ、現在わたしたちが置かれた状況を理解し、議論を深めるためにも、ワークショップを企画しました。まずは関西で開きますが、追って関東でも企画したいと考えております。ふるってご参加ください。

板垣竜太(同志社大学)、市野川容孝(東京大学)、鵜飼哲一橋大学)、内海愛子早稲田大学)、宇野田尚哉(神戸大学)、河かおる(滋賀県立大学)、駒込武(京都大学)、坂元ひろ子(一橋大学)、高橋哲哉東京大学)、外村大(東京大学)、冨山一郎(大阪大学)、仲尾宏(京都造形芸術大学)、中野敏男(東京外国語大学)、藤永壮(大阪産業大学)、布袋敏博(早稲田大学)、水野直樹(京都大学)、三宅晶子(千葉大学)、米田俊彦(お茶の水女子大学

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(以下はワークショップのご案内)

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■        朝鮮学校の「高校無償化」問題を考える        ■
■            関西ワークショップ             ■
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 さる3月31日、いわゆる「高校無償化」法案が参議院を通過し、4月1日より施行されました。今年2月になって突如浮上した朝鮮学校の適用除外案は、結論を留保されたまま、文部科学大臣の判断に委ねられることになりました。夏までに結論を出すといわれていますが、外国人学校のなかでも朝鮮学校だけが例外扱いとなったこと自体、不当な措置といわざるを得ません。

 朝鮮学校の排除案をめぐっては、様々な方面から反対の声があげられました。今回のワークショップは、そのなかでも高等教育に関わる者としての立場から要請書を提出した大学教員有志が企画しました(*)。川端文科大臣は3月の国会答弁で、外国人学校への就学支援金支給の基準として大学入学資格を「一つの参考」にすると発言しました。実際、4月1日に告示された文部科学省令では、大学入学資格の認定基準が援用され、その結果、朝鮮学校は当初適用除外となりました。このように、大学の問題と「高校無償化」問題は深くつながっています。

 そうした点も含め、朝鮮学校の歴史、積み重なってきた諸問題、現状、そして今後の課題を論じながら、何が問題の本質なのか、何をすべきなのかを考えていきたいと思います。関心ある方々の広い参加を呼びかけます。

(*) この要請書等については、下記のブログをご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/mskunv/

日時:4月25日(日)午後2時〜5時(開場は1時半)
場所:同志社大学今出川キャンパス・明徳館・M1教室
 アクセスマップ http://www.doshisha.ac.jp/access/ima_access.html
 キャンパスマップ http://www.doshisha.ac.jp/access/ima_campus.html
 地下鉄烏丸線今出川駅下車、徒歩3分。駐車場はございませんのでご了承ください。
入場料:無料

内容:
 司会、趣旨説明: 水野直樹(京都大学教員)
 経過と現状について:駒込武(京都大学教員)
 朝鮮学校保護者として:高龍秀(甲南大学教員)
 今後の課題:大学教員、朝鮮学校関係者など
 討論

主催:「高校無償化」措置を朝鮮学校に適用することを求める大学教員の会
問い合わせ先: msk_univ[AT]yahoogroups.jp

「高校無償化」措置の基準に大学入学資格を援用することについて

 「高校無償化」法案と大学入学資格との関係について、見解をまとめました(下記の文章は992名が賛同した「要請書」とは別のものですので、ご注意ください)。以下に見解部分のみを掲載しますが、根拠となる資料をご覧になりたい方は、次のファイルをダウンロードしてください。
nyugakushikaku.pdf 直



2010年3月25日
関係各位

「高校無償化」措置の基準に大学入学資格を援用することについて

 いわゆる「高校無償化」法案においては、専修学校各種学校について、「高等学校の課程に類する課程を置くもの」として省令で定めた学校を就学支援の対象に含めることと定めています。ですが、その基準がいかなるものになるかは現段階で必ずしもはっきりしていません。そうしたなか、衆議院文部科学委員会(3月12日開催)において、川端達夫文部科学大臣は、大学入学資格を「一つの参考」にしていると発言しました。私たちは、大学入学資格を有する学校を高等学校レベルの学校とみなして、「高校無償化」の対象とすること自体は望ましいと考えます。ですが、大学入学資格を有していないとされる学校について、そのことを根拠に排除するのは、以下のような理由から不当な措置と考えます

1.中学校卒業者の後期中等教育課程での学習を支えるのが本来の趣旨である

 そもそも「高校無償化」とは、中学校を卒業した子どもたちの後期中等教育での学習を支えるための制度です。だからこそ就学支援金は在学生を対象としているのであり 、課程を修了すると大学入学資格が得られるかどうかはひとまず関係ありません。実際、専修学校高等課程のうち、修業年限が3年未満の課程など、修了者の大学入学資格が認められていない課程の在学生も、今回の「高校無償化」措置の対象とされています。多様化する後期中等教育課程での学習をサポートするという意味において、これは当然のことだと考えます。川端大臣が、専修学校高等課程について「中学校における教育の基礎の上に教育を行う」から就学支援の対象となると説明しているように、「高等学校の課程に類する課程」の第一の判断基準は、前期中等教育に続く教育機関であるかどうかということにあります。

2.大学入学資格は「高等学校の課程に類する課程」としての十分条件である

 ですが、それは大学入学資格が基準にならないということを意味しません。むしろ修了者の大学入学資格が認められている教育機関は、「高等学校の課程に類する課程」としての十分条件を満たしているといえます。ところが現状では、大学入学資格を有する外国人学校が全て各種学校として認可されているわけではありません。各種学校未認可校のなかでも、修了者が大学入学資格を有する学校が相当数あります。しかしながら、現法案では未認可校は就学支援の対象となっていません。私たちは、修了者の大学入学資格が認められている以上、未認可校であるという理由により「高校無償化」措置の対象から排除されるのは、制度の趣旨からしても不公平だと考えます。

3.現行の外国人学校の大学入学資格の区分は「客観的」ではなく「政治的」である

 鈴木寛・文部科学副大臣の国会答弁によれば、各種学校として認可されている外国人学校のなかでも、全国各地の朝鮮高級学校と、K・インターナショナル・スクール東京、ムンド・デ・アレグリア学校の2校は、大学入学資格を有しないと解釈されています。もしこの解釈が機械的に「高校無償化」措置に適用されるとすれば、各種学校に認可された外国人学校のなかで、上記の各学校は就学支援の適用外となります。このことはきわめて不当だと考えます。その理由について、以下、朝鮮学校を中心に記します。
 さる2003年の文科省告示以来、ほとんどの外国人学校の修了者が学校単位で大学入学資格を認められるようになったにもかかわらず、朝鮮学校だけが、「当該外国の正規の課程(12年)と同等として位置付けられている」かどうかを、大使館等を通じて「公的に確認」することができないとして、「我が国において、外国の高等学校相当として指定した外国人学校」のリストから除外されました 。その結果、朝鮮学校の修了者が大学の受験資格を得ようとすれば、各大学での「個別の入学資格審査」(以下「個別審査」)によるしかない、という状況が続いてきました。
 これが、2002年の日朝首脳会談後の「拉致」問題をめぐる日本の政情を受けた政治的判断の結果であったことは明らかです 。その意味では、学校を単位とする大学入学資格の有無を基準とすること自体、「客観的」な判断基準どころか、むしろ政治的な判断基準であるといわざるを得ません。

4.朝鮮学校出身者は大学入学資格を有しないとの政府答弁は実態に反する

 さらにいえば2003年度以降、各大学の「個別審査」によって、朝鮮学校の修了(見込)者の大学受験資格が認められなかったことは基本的にありません。京都大学九州大学などでは、学校単位で認定されています。つまり「個別審査」とは、それぞれの朝鮮学校修了(見込)者の学力を一人一人審査するというよりは(それは入学試験の役割です)、実際のところ、各学校の教育課程の形式的な側面(修業年限、総単位時間数、普通教科の総単位時間数)を高等学校専修課程の基準を準用して審査してきたのであって、その意味においては朝鮮学校が「高等学校の課程に類する課程を置くもの」であるとの判断実績が蓄積されてきたといえます。ですから、朝鮮学校が大学入学資格を有していないとする政府答弁は、実態に反しています。ましてや、文科省がその解釈を朝鮮学校の「高校無償化」措置の適用除外の根拠として用いるとすれば、それは断じて許せません。

 以上の理由から、私たちは、大学入学資格が「高校無償化」の対象に含めるための一基準にはなり得たとしても、それを「高校無償化」措置の不適用を判断するための基準として準用することは不当だと考えます。あらためて、朝鮮学校を含む外国人学校への「高校無償化」措置の適用を強く求めます。

板垣竜太(同志社大学)、市野川容孝(東京大学)、鵜飼哲一橋大学)、内海愛子早稲田大学)、宇野田尚哉(神戸大学)、河かおる(滋賀県立大学)、駒込武(京都大学)、坂元ひろ子(一橋大学)、高橋哲哉東京大学)、外村大(東京大学)、冨山一郎(大阪大学)、仲尾宏(京都造形芸術大学)、中野敏男(東京外国語大学)、藤永壮(大阪産業大学)、布袋敏博(早稲田大学)、水野直樹(京都大学)、三宅晶子(千葉大学)、米田俊彦(お茶の水女子大学