「高校無償化」措置の基準に大学入学資格を援用することについて
「高校無償化」法案と大学入学資格との関係について、見解をまとめました(下記の文章は992名が賛同した「要請書」とは別のものですので、ご注意ください)。以下に見解部分のみを掲載しますが、根拠となる資料をご覧になりたい方は、次のファイルをダウンロードしてください。
nyugakushikaku.pdf
いわゆる「高校無償化」法案においては、専修学校と各種学校について、「高等学校の課程に類する課程を置くもの」として省令で定めた学校を就学支援の対象に含めることと定めています。ですが、その基準がいかなるものになるかは現段階で必ずしもはっきりしていません。そうしたなか、衆議院・文部科学委員会(3月12日開催)において、川端達夫・文部科学大臣は、大学入学資格を「一つの参考」にしていると発言しました。私たちは、大学入学資格を有する学校を高等学校レベルの学校とみなして、「高校無償化」の対象とすること自体は望ましいと考えます。ですが、大学入学資格を有していないとされる学校について、そのことを根拠に排除するのは、以下のような理由から不当な措置と考えます
1.中学校卒業者の後期中等教育課程での学習を支えるのが本来の趣旨である
そもそも「高校無償化」とは、中学校を卒業した子どもたちの後期中等教育での学習を支えるための制度です。だからこそ就学支援金は在学生を対象としているのであり 、課程を修了すると大学入学資格が得られるかどうかはひとまず関係ありません。実際、専修学校高等課程のうち、修業年限が3年未満の課程など、修了者の大学入学資格が認められていない課程の在学生も、今回の「高校無償化」措置の対象とされています。多様化する後期中等教育課程での学習をサポートするという意味において、これは当然のことだと考えます。川端大臣が、専修学校高等課程について「中学校における教育の基礎の上に教育を行う」から就学支援の対象となると説明しているように、「高等学校の課程に類する課程」の第一の判断基準は、前期中等教育に続く教育機関であるかどうかということにあります。
2.大学入学資格は「高等学校の課程に類する課程」としての十分条件である
ですが、それは大学入学資格が基準にならないということを意味しません。むしろ修了者の大学入学資格が認められている教育機関は、「高等学校の課程に類する課程」としての十分条件を満たしているといえます。ところが現状では、大学入学資格を有する外国人学校が全て各種学校として認可されているわけではありません。各種学校未認可校のなかでも、修了者が大学入学資格を有する学校が相当数あります。しかしながら、現法案では未認可校は就学支援の対象となっていません。私たちは、修了者の大学入学資格が認められている以上、未認可校であるという理由により「高校無償化」措置の対象から排除されるのは、制度の趣旨からしても不公平だと考えます。
3.現行の外国人学校の大学入学資格の区分は「客観的」ではなく「政治的」である
鈴木寛・文部科学副大臣の国会答弁によれば、各種学校として認可されている外国人学校のなかでも、全国各地の朝鮮高級学校と、K・インターナショナル・スクール東京、ムンド・デ・アレグリア学校の2校は、大学入学資格を有しないと解釈されています。もしこの解釈が機械的に「高校無償化」措置に適用されるとすれば、各種学校に認可された外国人学校のなかで、上記の各学校は就学支援の適用外となります。このことはきわめて不当だと考えます。その理由について、以下、朝鮮学校を中心に記します。
さる2003年の文科省告示以来、ほとんどの外国人学校の修了者が学校単位で大学入学資格を認められるようになったにもかかわらず、朝鮮学校だけが、「当該外国の正規の課程(12年)と同等として位置付けられている」かどうかを、大使館等を通じて「公的に確認」することができないとして、「我が国において、外国の高等学校相当として指定した外国人学校」のリストから除外されました 。その結果、朝鮮学校の修了者が大学の受験資格を得ようとすれば、各大学での「個別の入学資格審査」(以下「個別審査」)によるしかない、という状況が続いてきました。
これが、2002年の日朝首脳会談後の「拉致」問題をめぐる日本の政情を受けた政治的判断の結果であったことは明らかです 。その意味では、学校を単位とする大学入学資格の有無を基準とすること自体、「客観的」な判断基準どころか、むしろ政治的な判断基準であるといわざるを得ません。
4.朝鮮学校出身者は大学入学資格を有しないとの政府答弁は実態に反する
さらにいえば2003年度以降、各大学の「個別審査」によって、朝鮮学校の修了(見込)者の大学受験資格が認められなかったことは基本的にありません。京都大学や九州大学などでは、学校単位で認定されています。つまり「個別審査」とは、それぞれの朝鮮学校修了(見込)者の学力を一人一人審査するというよりは(それは入学試験の役割です)、実際のところ、各学校の教育課程の形式的な側面(修業年限、総単位時間数、普通教科の総単位時間数)を高等学校専修課程の基準を準用して審査してきたのであって、その意味においては朝鮮学校が「高等学校の課程に類する課程を置くもの」であるとの判断実績が蓄積されてきたといえます。ですから、朝鮮学校が大学入学資格を有していないとする政府答弁は、実態に反しています。ましてや、文科省がその解釈を朝鮮学校の「高校無償化」措置の適用除外の根拠として用いるとすれば、それは断じて許せません。
以上の理由から、私たちは、大学入学資格が「高校無償化」の対象に含めるための一基準にはなり得たとしても、それを「高校無償化」措置の不適用を判断するための基準として準用することは不当だと考えます。あらためて、朝鮮学校を含む外国人学校への「高校無償化」措置の適用を強く求めます。
板垣竜太(同志社大学)、市野川容孝(東京大学)、鵜飼哲(一橋大学)、内海愛子(早稲田大学)、宇野田尚哉(神戸大学)、河かおる(滋賀県立大学)、駒込武(京都大学)、坂元ひろ子(一橋大学)、高橋哲哉(東京大学)、外村大(東京大学)、冨山一郎(大阪大学)、仲尾宏(京都造形芸術大学)、中野敏男(東京外国語大学)、藤永壮(大阪産業大学)、布袋敏博(早稲田大学)、水野直樹(京都大学)、三宅晶子(千葉大学)、米田俊彦(お茶の水女子大学)