再度の要請書の提出について

 8月3日(火)に一橋大学で開かれた「朝鮮学校の「高校無償化」問題を考える学習討論集会」には100名におよぶ参加者があり、活発に討論が交わされました。その場で下記の「要請書」を採択しました。
 この日奇しくも、政府が「朝鮮学校を原則として無償化の対象とする方針を固め、近く発表」するとのTBS報道がありました。しかし、まだ文部科学省において正式決定されたわけではありませんし、翌4日の朝日新聞報道によれば、首相官邸には「政府全体でどう判断するかは別問題」との声もあるとのことで、全く予断を許しません。また、仮に適用が決定されたとしても、問題は継続し、私たちの集会の総意としてのこの要請書を政府に伝達する意義は十分にあります。
 そこで、次の日程で、再度の要請行動をおこないます。
8月11日(水)午前11時〜 文部科学省へ要請書を提出
同日12時〜 記者会見
 当日の模様は、またこのブログで報告いたします。



2010年8月3日
内閣総理大臣 菅直人 様
文部科学大臣 川端達夫 様
内閣官房長官 仙谷由人 様

「高校無償化」措置からの朝鮮学校の排除にあらためて反対する大学人の要請書

 「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」が本年3月31日に成立し、4月30日には施行規則(第1条第1項第2号)に基づいて、この法律が適用される外国人学校の一覧表が告示されました。しかし朝鮮学校については、そこから排除されて「無償化」の対象から外されたままにあり、報道によれば、専門家による検討の場を経て別に結論が出されるとされています。このように朝鮮学校だけを特別視する扱いは、それ自体が差別であり、私たちは教育の場でそのような差別が今回もなされていることを深刻に憂慮します。この問題について私たちは、去る3月18日、大学教員を中心に署名を集めて、文部科学省に「高校無償化」措置の朝鮮学校への適用を求める要請書を提出しました。それにもかかわらず、なおこの現状であることに対して、私たちは抗議の立場から広く討論集会を呼びかけ、その参加者の総意の下に、あらためてこの制度から朝鮮学校が排除されることの無いよう強く要望するものです。
 私たちは大学人として、今回、一覧表から朝鮮学校が外された理由に、2003年に定められた大学入学資格の認定基準が転用されていることを、特に不当だと考えるものです。2003年に定められた大学入学資格の認定基準は、多くの大学人の反対にもかかわらず日朝関係に関わる政治的判断から当時持ち込まれたもので、その後、各大学では、その「個別審査」の枠を通じつつも、ほぼすべての朝鮮高級学校卒業(見込)者の受験資格を認めてきました。そのように大学としては、すでに朝鮮学校を「高等学校の課程に類する課程」として認定し、それを前提に大学教育を行ってきているのですが、今回の措置でその実績が一切顧みられないというのは、日本の大学教育の現状の無視であり、教育行政の整合性を破壊するものではないでしょうか。
 また、日本が批准し今回の「高校無償化」政策の理由にも挙げられている「国際人権規約」「子どもの権利条約」は、民族教育の保障を規定しています。とすれば、朝鮮学校が制度的に不安定な地位に置かれている現状は両条約の精神に反するものであり、その上に「高校無償化」からも排除することになれば、国際社会からの批判を決して免れることはできないでしょう。実際、「無償化」からの朝鮮学校排除の不当性は5月に来日したピレイ国連人権弁務官によってもはっきりと指摘され、韓国を含む世界各国からも、今日までに数多くの批判が寄せられています。日本の教育行政は、この世界の声にも真摯に応えるべきではないでしょうか。
 日本の朝鮮植民地支配下では、民族教育に対して様々なかたちの弾圧が加えられました。また、公式的な植民地支配の後にも日本政府は、朝鮮人学校の閉鎖措置を強行したり制度的差別を設けたりして、在日朝鮮人の民族教育に対して不当な干渉を続けてきました。今回の「高校無償化」に関わる措置が、こうした差別の歴史に過ちをさらに重ねるものであっては決してならないと私たちは思います。今こそそうした歴史に対する真の反省と謝罪の立場に立って過去の過ちを償い、現状を変革しなければならないときです。このときに朝鮮学校を「無償化」措置から排除するとすれば、それは、日本の歴史的責務に真っ向から反するものであると私たちは思います。そのことを憂慮すればこそ私たちは、新内閣が、日本の世論と政府の一部に根強く見られる排外主義的傾向に決して流されることなく、ここで公正な判断を下されるよう強く望むものです。
 以上の理由から私たちは、新しい「高校無償化」制度から朝鮮学校を排除することなく、全ての外国人学校とともにその対象とするよう、あらためて要望します。

朝鮮学校の「高校無償化」問題を考える学習討論集会 参加者一同