ご報告(3月19日)

 以下は賛同者に宛てて送ったメール(抄)です。


 表記の要請書へのご賛同をありがとうございました。
 私たち呼びかけ人の予想をはるかに越えて次々と賛同のメールが寄せられ、わずか3日間で1000名近くの方から賛同をいただきました(締め切った後にも届いた賛同をあわせれば、1000名を超えました)。
 短期間の呼びかけでもありましたので、個々の賛同メールへのお返事はいたしませんでしたが、自分のメールが確実に届いているかどうかは下記のブログ上の賛同者一覧(匿名を希望された方は記しておりません)にてご確認ください。
http://d.hatena.ne.jp/mskunv/
 なお、ブログ上の記事の内、賛同者一覧については、しばらくしましたら一般公開は停止する予定です。
〔…〕
 以下、昨日の要請書提出と、記者会見についてご報告させていただきます。

【1.記者会見】

 昨日の要請行動に参加したのは、呼びかけ人のうち、鵜飼、米田、中野、坂元、高橋、三宅の計6名でした。
 なお、本来ならば要請書を提出し、その後に記者会見ということになるのですが、記者会見室の予約の関係で、記者会見が要請行動より先に、10時30分より行われました。そのことが、後述するように、要請書提出に先だって文部科学大臣の認識の誤りに気づかせてくれる結果になりました。

 記者会見に出席したメディアは朝日、毎日、読売、産経の各新聞社と共同通信、代表幹事社のテレビ朝日、それにTBSの撮影が入りました。
 趣旨説明は、事前に準備した説明用資料にもとづいて鵜飼が行いました。説明のあと、代表幹事社のテレビ朝日の記者から、これから面会する官僚の職位および名前のほかに、下記の2点の質問がありました。

1)朝鮮高級学校に支援金を給付すると、日本が経済制裁を課している北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)に送金される危険があるという意見があるがどう考えるか。
2)川端文部科学大臣衆議院における審議において、各大学における「個別審査」とは個々の学生に対する審査のことであり、朝鮮高級学校に対する審査ではないと答弁している。これは要請書の説明と食い違うが事実はどうか。

 1)に関しては、普遍的な人権および教育の理念にもとづく文教政策はそのような憶測に左右されてはならず、無償化政策の適用はあくまで朝鮮高級学校で学ぶ生徒の立場にたって判断されるべきであり、国家間の係争に判断基準における優先順位を与えてはならないと返答しました。
 2)については、個々の学生に対する審査は入学試験で行うものであり、ここで問題となる「個別審査」とは、私たちの要請書にある通り、各大学が高等学校専修課程の基準を準用して朝鮮高級学校に対して行ってきた審査を言うのであり、川端大臣の答弁は事実誤認にもとづくものであるという指摘がなされました。

 現時点で、「呼びかけ人」サイドで把握している報道は次の記事のみです。他にもございましたら、ご教示ください。

○「<高校無償化>朝鮮学校にも適用を 大学教授らが首相に要請」(毎日新聞、3月18日19時16分配信)

【2.文科省での提出】

 その後、11時30分から30分あまり、文部科学省旧省舎の応接室で、要請書および資料一式の手渡しと、若い官僚の方との討論の時間を持ちました。
 今回面会に出てきたのは、初等中等教育局初等中等教育企画課の高橋洋平氏、同、江間啓智氏の両名でした。受け答えはすべて、高橋氏によってなされました。文科省側はすでに要請書に目を通していたので、こちらもその場で読み上げることはせず、記者会見時と同様の趣旨説明を鵜飼が行いました。文科省側の応答は次のようなものでした。

1)高等学校等支援金の給付は、各家庭に支給すると教育費に使われないおそれがあるので各学校に支給されることになる。法案の2条5項に規定された「各種学校」は省令によって無償化政策の対象となる。目下文科省では、どのような省令によるならば朝鮮高級学校を無償化政策の対象とすることができるか、その方法を検討中である。
2)文科省としては、国交がないこと、民族教育が行われていること、拉致問題が未解決であることは、朝鮮高級学校を排除する理由として考慮していない。先生方から見ると不十分かもしれないが、川端大臣も答弁でそう述べてきた。
3)しかし、無償化に関する法律は、明日から参議院で審議入りし、4月1日施行を目指している。その段階で省令も官報に掲載しなければならず、時間的に切迫している。
4)とはいえ、一部で報道されており要請書でも言及されているような、「第三者評価組織」による検討という方針は文科省では確認していない。「客観的システム」(評価基準)によって判断するという鳩山首相の発言は、「第三者評価組織」による検討と同義ではない。
5)大学において朝鮮高級学校卒業生に実質的に受験資格が与えられていることを、この客観的評価基準に参考として加味するか否かはまだ決めていない。
6)上層部の議論は自分たちのような下部の官僚には見えにくいが、いずれにしても、文科省として、すでに排除を決定しているということではない。
7)このところ、朝鮮高級学校の排除を要求する激しい電話が頻繁にかかってきている。文科省はそのような圧力とは別の次元で作業を進めている。

 ほぼこのような内容であり、それに対し、参加した呼びかけ人から意見表明を行いました。

【3.あらためて浮上する大学入学資格問題】

 今回、「大学教員」としての立場から要請するにあたって、あらためて大学入学資格問題で残されていた課題が浮上してきました。

 2003年に外国人学校の大学入学資格をめぐって大きな議論となったことはご承知かと存じます。当時も、やはり「拉致」問題との関係で入った横槍もあって、朝鮮高級学校についてのみ、「教育課程について、公的ルートでの確認が困難」という理由で、各大学の「個別審査」に任されることになりました(下記のページを参照)。
http://www.jca.apc.org/~itagaki/racism/

 その後、各大学がこの「個別審査」を通じて、朝鮮高級学校の入学資格を認めてきました。たとえば、九州大学京都大学などでは各朝鮮高級学校の卒業者に入学資格を自動的に認定することとしており、そのことを入試要項にも記しています。その際の「個別審査」とは、個々の生徒を審査するのではなく、その生徒の出身学校のカリキュラムが高等学校と同レベルといえるかどうかを調べるものであることを明確にしています。たとえば、京都大学の場合、一度「個別審査」を経た学校の出身者は、その後、出身教育施設の規則や出身教育施設のカリキュラムも提出しなくてよいことになっています(下記を参照)。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/education/admissions/undergrad/requirements/past/requirements_h20/h20yoko02.htm/

 こうした各大学の措置の結果、事実上、朝鮮高級学校の大学入学資格は認められてきたし、それを文科省が追認してきたことは「要請書」で論じたとおりです。しかしながら、外国人学校のなかでも朝鮮学校が制度的に例外扱いとなっている点においては、依然として変化がありません。川端大臣の発言が示唆するのは、ともすればこの大学入学資格の例外扱いという前例が、「高校無償化」の適用除外の「客観的基準」として転用される可能性もあるということです。したがって、それを既成事実化させないことが、この「高校無償化」問題とも関わって、大学教員の課題としてあらためて浮上してきているように思われます。

 朝鮮高級学校の高校相当の学校としての位置づけを明確にするために、まずは公・私立大学を含めて、朝鮮高級学校出身者が不利益を受ける仕組みになっていないか、あらためて検討する必要があるといえます。その際に、一般入試だけでなく、推薦入試などの特別入試にも留意する必要があります。ぜひ賛同者のみなさんに各大学の状況を検証していただき、現状と問題点を、私たちのもとにご連絡いただければ幸いです。

 今回の要請書の範囲を踏みこえるものではありますが、そのことが、現行の大学入学資格における朝鮮学校の例外扱いを撤回させる力にもなりますし、それが「高校無償化」の適用除外案への有力な批判の力の一つとなると考えます。

呼びかけ人(あいうえお順)

板垣竜太(同志社大学)、市野川容孝(東京大学)、鵜飼哲一橋大学)、内海愛子早稲田大学)、宇野田尚哉(神戸大学)、河かおる(滋賀県立大学)、駒込武(京都大学)、坂元ひろ子(一橋大学)、高橋哲哉東京大学)、外村大(東京大学)、冨山一郎(大阪大学)、仲尾宏(京都造形芸術大学)、中野敏男(東京外国語大学)、藤永壮(大阪産業大学)、布袋敏博(早稲田大学)、水野直樹(京都大学)、三宅晶子(千葉大学)、米田俊彦(お茶の水女子大学